広島の兄からスペースワールドのフリーパス券というものを数枚貰ってしまった。内の娘らとその母(私の妻でもある)は、数年前大宰府園でバイキングという船形をした大きく前後に揺れるものに乗ってとても怖いおもいをしたことに懲りて、もっとすごい乗り物ばかりがあるらしいスペースワールドだけには行きたくないとズーと言っていた。… のにである。貰ってしまったからには行かなくてはモッタイナイという根性で、春休みに皆で出かけることになった。げにオソロシキは … の力である。 さすがにタイタンという高さ60mもあるコースターに乗る勇気は私にもないが、緩やかなものもいろいろあり楽しめた。中でも、映像を用いたバーチャル的な宇宙旅行もなかなか迫力があってほんとうに宇宙に飛び出している気分である。実際はわずかに揺れる座席に単に座っているだけであり極めて安心である。何年か後にはこのように気軽に地球を飛び出し宇宙の景色を眺められる日がほんとうにくるだろうと思えば感慨深い。 ところで、最近コンピューターの進歩に伴なって「バーチャルリアリティ」なるものが大流行である。「仮想現実」と訳されることがあるが、これは正しい訳とは言えないのだそうだ。「バーチャル」の本来の意味は、[そのものではないがそのものの本質をもつもの]という意味だそうである。したがって、「バーチャルリアリティ」とは、「現実そのものではないが現実と同じ体験ができること」という意味合いになる。 例えば、バーチャルマネーとは貨幣(お金)そのものではないが貨幣の役割をするもののことを言う。仮想的なお金では使いものにならない。もう一つの例としては、紫色の光について。紫色の光は波長が約4000A(オングストローム)の電磁波である。しかしながら,波長が約7500Aの赤色と約4500Aの青色の光を同時に見ると我々には紫色に見える。この紫色はもちろん波長が4000Aではないが4000Aの紫色と全く区別できない。波長4000Aの紫色を本物の紫色とするなら赤色と青色からできる紫色は、我々にとってバーチャルなものであるということになるのだそうだ。 一般にあるもの(こと)Aはいろいろな面をもっている。仮にこれらをa、b、c、… とする。これら全てをもってAであり、1つでも欠けたり異なるとAではない。いまAとは異なるBがあるとする。このBのもつ面はa、b’、c’、… とする。すなわちAとBのもつ面のうちaのみは同じで他は異なるとする。我々がAを体験するためにはもちろんAそのものを体験するしかない。しかしAのもついろいろな面のうちaのみを体験したいなら、Bを体験してもなんら変わりはない。BをAの(aの面に関しての)バーチャルということにしよう。特にAのもつ多くの面のうちaがAの本質的な位置を占めているものであるなら、同じaをもつBで代用する意味は大きい。 1万円札の例でいえば、1万円札がもっている面には1万円相当の品物と交換できたりサービスを受けられる、横159mm縦76mm(今測ってみて)の大きさの紙、福沢諭吉の肖像画、…などがあるが、まあ一般的には1万円札の本質といえば1万円相当の品物と交換できたりサービスを受けられる、ということであろうから、1万円相当の品物と交換できたりサービスを受けられるようなカードや券でありさえすれば、何も大きさが横159mm縦76mmの紙でなくてもよいし、福沢諭吉の肖像画が描かれている必要はない。よってこのカードや券をバーチャル1万円ということができる。 しかしながら、やはり福沢諭吉の描かれたあの手触りのする本物の1万円札でないとどうも落ち着かないという人々がいるだろう。そのような人々にとっては、1万円札のもつ本質として単に1万円相当の品物と交換できたりサービスを受けられるというだけではなく、あの大きさや手触りがなくてはならないものなのである。 さて、何故このように長々とバーチャルということについて述べてきたのかというと、「数学の授業」をパソコンを用いた「バーチャル授業」にしてみたらと考えたからである。ここで問題になるのが、数学の「授業の本質」とは何か、すなわち数学の授業が数学の授業であるために欠くべからざるものは何か、ということである。その本質が抜け落ちたものではバーチャル授業にはなり得ない。そこで日頃あまり考えることもなく行ってきた数学の授業について、その本質とは何かを改めて考えざるをえなくなったのである。 数学の知識が学生に身に付けばよいという人もいるだろうし、計算さえ出来るようになればよいという人もいよう。論理的な思考力の養えるものでないとだめだという人もいようし、創造的な考え方ができることを求める人もいよう。そんなものではなくて、数学の美しさをともに感じ合い、信頼関係や情を育むことこそ重要だと考える人もいよう。あるいは黒板のチョークの粉の舞う教室で同じ空気を吸いながら、私の高度で洗練された駄洒落がときどき入る説明 (高度で洗練されたはこの説明にかかる?) が聞けない授業は数学の授業ではないという学生さんもいるだろう (いないか?)。 いろいろ意見はあるだろうが、とりあえず学生が自主的に興味をもって取りくめるものをと思って作ってみたのであった。 バーチャルレッスン 定積分ランキング (2001. 3.29)
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バーチャル紫の実験(?) | ズーと離れて見ると? | |
これが紫→ | ||
赤と青を市松模様にしたもの→ | ||
赤と青を市松模様にしたもの→ (もっと細かく) |