数学や物理では授業の内容をほんとうに理解するには、それらに関連した演習問題を自分でやることが極めて効果的である。
そこで学生には、その日の授業に関連した演習問題を指定し、次回までにやってレポートにして提出することを課すことにしているが、
学生の提出したレポートをチェックすることは手間と時間を要することである。 ある時、学生の提出したレポートをかき集めながら学生にいった。 「君たちも毎週レポートを提出するのは大変だろうけど、 これをチェックするのもなかなか大変なんですよ。先日、大学の文系の先生の書いたエッセイを読んでいたら、こんな話が書いて あったんだけどね。まあ文系の科目のレポートは特に長い文章のレポートだらけですから、学生にレポートを出させたのはいいが、 それらをいちいち読んで点数を付けるのは大変なんですね。ところでその先生は猫が好きで、家に何匹か猫を飼っていたんですね。 それでその先生は授業のとき冗談で『君たちのレポートを抱えて2階へいき、窓からレポートをばらまきます。 それで猫が先に加えてきたレポートからいい点数を付けます。』といったわけです。そしたら次回の学生の提出したレポート には、『猫ちゃんによろしく』とかなんとか書いている学生が何人かいるんですが、まあこれらはかわいいもんです。中にひとつ、 レポートの端にカツオ節をホッチキスで留めているのがいたそうです。こういうのは間違いなく『優』ですね。まあ、 私は猫はあまり好きではないので飼ってはいないんですが、私にはかわいい女の子が2人います。ちなみに2人ともチョコレートが 好きなんですけどね....。」 最近では、生真面目(?)な学生が本気にしてはまずいので、「これは冗談ですよ、ジョークですからね。」 と断っておくことを忘れてはならない。 学期末の試験の答案に、「この答案用紙にチョコレートを付けたい気分です」 と書いた学生もいた。学生にとっては、内容を修得できたかどうかより単位が取れるかどうかの方が重大事である気持ちは、分からないではない。
今年も、学生の成績を付けなければならない年度末が到来した。さて、上表はA君とB君の数学の成績である。 ただし、ちょっと皆さんに考えていただきたいので、分かり易い点数にしてある。何を考えていただきたいかと言うと、これらの結果からA君、B君の学年評点を何点にすべきかということである。 何も悩むことはない、これら4回の点数の平均をとって、両君とも65点の合格点でいいではないか、と言われる向きもおられるだろう。確かにどちらもメデタク合格点は付けられそうなので悩みは少ないのだが、徐々に下降しているB君より、だんだん良くなっているA君の方に高い点数をつけてやりたいというのが、人情というものではないだろうか。一方で、そんな人情で数学の成績を付けられてはたまらない、というのももっともな意見ではある。そこで、理論的(?)に考えてみよう。といっても、こむずかしい統計学に基づいた主成分分析法なんぞを持ち出すつもりはない。 評点の付け方が、評点を付けられる当の学生に理解できないようなものでは、これまたマズイ。 まず、4回の点数の平均をとって学年評点をつけること自体が、なんら根拠があることではない、ということである。あえて根拠があるとするなら、このような平均 (相加平均という) が、単に計算が簡単で分かり易い、ということで一般に用いられているに過ぎないだろう。 さて、理屈を考える前に、直感的にA君、B君の評点を何点にするのが妥当であろうか。私の感じであるが、まあA君68点くらい、B君62点くらいが妥当なところではなかろうか。うん、それでいいだろう、何もへたに理屈を付けなくても、全体を見渡して判断するのが一番間違いがない、と思われるかも知れないが、そう簡単にいけば苦労しない。次のようなC君、D君の場合にはどうすればいいのだ。
私はいろいろと試行錯誤して、次のような計算式を得た。 学年評点=(1×前期中間点+2×前期期末点+2×後期中間点+3×後期期末点)÷8 すなわち、後ろのほうにウエイトを付ける加重平均をとるわけである。 このようにする理由にはいろいろある。一つには数学が積み重ねの学問であるという事情があるし、また一つには学生に最後まで希望をもって頑張るチャンスを与えることができるということである。そして、A君のようにこれから先さらに伸びることが予測されることも考慮できるということもある。ちなみに、私の評価法によるA君たちの評点は以下のようになる。 A君:69点 B君:61点 C君:58点 D君:58点 なかなか妥当なところだという気がしている。 何についてどのように評価すればいいのか、さらに、現在どうかだけではなく、今までの状況をも判断に入れなくてはならないこともあるだろう。いずれにしても、何かを評価し点数を付けるということに絶対的な方法がないだけに、最後には評価する側こそ常識的な感覚を磨くことが要求され、評価する側こそ評価されることになるのである。 (2002. 2. 1)
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主成分分析法: いくつかの変量(x1、x2、…、xn)の値に対し、できるだけ情報の損失なしにそれらを代表する総合的指標 Z を定める方法。例えば、国語、数学、社会、英語の得点から、その学生の総合的得点を定めるのに、一般にはそれらの単なる総和(合計)を用いているが、主成分分析法は、Z =a0+a1x1+ … +anxn のように、重みを積極的に取り入れる方法である。ここで、係数a0、a1、…、an は、変量(x1、x2、…、xn)をできるだけよく代表するようにデータ解析を行い理論的に定める。 |