> 『数学的思考(?)エッセイ』 の試み

35. とにかくやってみるか
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 自分も含めて30人の仲間が、自分の家に集まってパーティーをすることになった。 もちろん、そんなに大勢の人が集まってパーティーができるほどの豪邸に住んでいるわけではない。 これはあくまで創作問題。

 「皆さん、2人づつのペアになって座ってください。ただし、ペアは次のようにして決めます。まず、全員輪になって並んでください。」

 「では説明をします。誰か例えば A さんから始めるとすると、A さんは B,C,D,E,F,G,H さんの順に、「あ」「な」「た」「が」「す」「き」「だ」 と指差しながら H さんのところまで進んでください。A さんは最後の 「だ」 で終わった H さんとペアになります。ペアが決まったらその人たちは輪からは抜けてください。
 次は、I さんが同じように J さんから始めて順に進み、最後の 「だ」 の P さんとペアになって抜けます。以下同じようにして、次々とペアを作って抜けてください。」


 ところが、1人だけ遅刻してまだ来ていない人がいた。そのまだ来ていない彼女こそ私の憧れの人。私は絶対、彼女とペアになりたい。

 「1人だけ遅くれてまだ来ていません。それで、いまのようにしてペアを組みますが、最後に1人残りますので、その残った人は遅刻してくる人とペアを組んでください。」

 さて、29人からなる輪の誰から最初に始めるかは、主催者の役得、自分で決めてもよい。自分の位置は図で c のところだ。

 「じゃあ、( ? ) さんから始めてください。どうぞ。」

遅れてくる彼女と是非ともペアになりたい私は、誰から始めたらいいでしょう?

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 ゲームやパズルの類は、やり始めるとムキになる性質(たち)であるが、パチンコはここ20年近くやっていない。学生時代の若き頃は、本を買いに出かけたはずなのにその途中にあるパチンコ店にちょっと立ち寄ったが最後、気が付くと “蛍の光” が流れていた、ということはしょっちゅうであった。自責の念を充分に味わったお陰で、学生を卒業したのを期にパチンコも卒業できたのである。
 パチンコにとり付かれていた頃、“ルービックキューブ ” というパズルが爆発的に流行ったことがある。写真のように、立方体が縦横高さ方向に3個づつ並んで1つの立方体に組み立てられていて、9個からなる1面全体をまとめて、その面に直交する軸の回りに回転できるようになっている不思議な構造である。最初6つの各面の色がばらばらの状態のものを、何回か回して6面全部をそれぞれ同じ色に揃えるパズルである。   ルービックキューブ(HTML版)

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 若き私がこれに ”ハマ” らないわけがない。時間が自由に使える学生もどき身分であった私は、手に入れたその日からの4日間(自分の研究は自主的にお休みにして)ルービックキューブに没頭した。
 1日目は何も考えないで、ただただガチャガチャやっていたが、あと3つが入れ替われば完成なのに、というところまで来て行き詰った。こちらを立てればあちらが立たず、という状態である。
 2日目に入って、ただ試行錯誤でやっていてもしようがない、たとえできたとしても、もう一度やってみろと言われたらダメだ、ということに気が付いた。こんな当たり前のことにすぐに気が付かないで、とりあえずヤミクモにやってみてやっと気が付くことは、人生を楽しく過ごすために欠かすことのできない私の優れた能力の内のひとつである。 (単に脳みその量が少ないだけだという意見もあるが、そのような正論は誰も(特に私を)喜ばせないので却下。)  パチンコに高い授業料と時間をかけてやっと卒業した所以である。ともかく、1日ガチャガチャとやったお陰で、次のようなアイデアが浮かんだ。
 「2、3回まわした後、それを元に戻そうとして逆に戻したつもりが、戻す手順を間違えたらもちろん元には戻らない。だが、ほとんどの部分は元に戻っている。場所が変わっているのはホンの一部分だ。」
 「ということは、2個あるいは3個が互いに入れ替わって、他の部分は全く変わらない回し方の手順を1つ見つければいいのではないか。そうすれば、この操作を何回か繰り返し用いれば、思い通りにすべての位置を変えることができるではないか。」
 ということで、2日目と3日目は、どれか2個あるいは3個のみが互いに入れ替わる回し方の手順を見つけることに専念し、4、5通りのそのような手順を見つけた。
 そして4日目に、これらの手順を使って6面全部の色を揃えることに成功。さらに、最も簡単な手順に改良し、ついに1分余りでできるようになった私は、さも簡単に解けた振りをして、研究室のみんなに得意になってやって見せたものである。


 その後、これに似たようなパズルをおもちゃ売り場で見つけると購入して楽しんだ。形は違っても、基本的な考え方だけは同じことである。

 さて、あなたは憧れの彼女とペアになれただろうか? (答えは → こちら
(2002. 3.29)
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 ルービックキューブで、1つの面を回転させる操作は、数学的には置換群で表される。ただし、ここでは 「理論的に考えるより、先ず手を動かしてやってみる ことによって、問題が解けることもある」 という話である。
 パーティーでのペア問題は、岡部恒治著「考える力をつける数学の本」(日本経済新聞社) の「第10章 とにかく手を動かしてみる」 を参考に創作したものである。

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