> 『数学的思考(?)エッセイ』 の試み

54. 近づきたい
 直感で答えていただきたい簡単な問題を1つ。

 「 月までの距離はおよそ38万Km。 夜空に浮かぶ月に行ってみたい、というこどもの頃の気持ちはもはや消え失せてしまったが、地球から倍率2倍の望遠鏡で覗いて見ればその大きさは、月までの距離のちょうど半分19万Kmのところから見るのと同じだと言えるか? 同様に、500倍の望遠鏡で覗いてみればその大きさは、月までの距離の500分の1、すなわち760km(おおよそ福岡から富士山までの距離)のところまで近づいて見るのと同じか? 」

 夜中に母親に起こされて便所に行かされるのが常であった。生まれ育った田舎は家の外に便所があった。縁側の雨戸を開けるとひんやりとした空気に身震いし寝ぼけまなこもパッチリ開いた。 黒い山々に囲まれたわずかな空にひとり満月が煌々と輝き、かわいた白い道だけが静寂のなかに浮かんでいた。

 こどもの頃はなにもかもが不思議であったはずであるが、特に意識したものに3つある。 磁石はなぜ鉄くずをくっつけるのか? 蛍のお尻はなぜ光るのか? そして、あの煌々と輝く月はなぜ落っこちてこないのか?

 これらのことは、こども心には不思議というより神秘なものを感じさせた。 だからその仕組みを知りたいというより、なぜこのようなすごいものがあるのだろう、という想いのほうが強かったように思う。
 月食があった。 しんと寝静まり白く照らされた庭先で、徐々に欠けそして再び現れる満月を、ひとりみかん箱に座って見つめていたのは、高校生のときである。

 そのころから大学に行って物理学を勉強したいと思うようになった。 個々の物質や現象を知りたいというより、この世を支配している法則、原理を知りたいという強い想いであった。

 いつのまにか磁石の研究を専門とするようになった。 大学4年の卒業研究に、磁石を理論的に扱うための 「イジング模型」 というものの数学的な扱いにとりつかれたためであるが、このときも磁石そのものに興味があったのではない。理論的に現象が説明できる、原理がある、その原理を追求していられるという心の安らぎがあったためである。

 知りたいのは知識ではない。 その奥に潜んでいる、支配している法則、原理である。行っても行ってもそれとともに遠ざかるものであっても、それを追い求めている、それに向かって歩んでいるという状態、そのときのみ心は安らいでいる。
(昨晩はきれいな満月 2003. 2.18)
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 答は下図を参照して考えてもらいたい。

 



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 下の写真は、同僚の某先生によって採取、拡大された私の数少ない貴重なる髪の毛である。 この写真では直径約63mmであるが、倍率810倍らしいから、私の髪の毛の直径は約0.08mm=80ミクロンということになる(これは正常値らしい)。 いま画面から50cm離れて見ている方には、実質0.6mmほどに近づいて見ていただいていることになる。(ワオー、そんなにそばに寄らないで。



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