「これがネコだよ」 「あれもネコだよ」 などと誰かに教えてもらって、ネコという動物を知るようになる。すべてのネコを見たわけではないのに、初めてみるものがネコかネコではないかの区別ができるようになるというのは、なんとも不思議ではある。また、誰かに教えてもらわないと絶対に習得できないこともあるが、試行錯誤して自然に身に付くようなこともあるように思う。 そこで、尺取虫をパソコン内で作っていろいろ試してみようかと思いたった。体をくねくねとしながら樹の枝などを移動するあの尺取虫である。名前を ”尺取くん” としよう。 生まれたばかりの尺取くんが、わけも分からず手足(胴体?)をパタパタクネクネとしているうち、何かのひょうしで前に進んだとする。このときの動き方を記憶する。そして何とか前に進む。このような自己学習を積み重ねて、ついにはスムーズに前に動いていくようにならないものだろうか、という試みである。 ●生まれたばかりの尺取くん まず、生まれたばかりの尺取くんである。この尺取くんの体は、1、2、3、4の4つの部分を持っていて図のようにつながっているとする。 1 2 3 4 尺取くんが宙に浮いたり、あるいは体を1点で支えているような不自然な状態をとるのはいただけない。そこで、地面と2ヶ所以上で接するような状態だけに限定し、とることができる体型は次の11個としよう。 ○ ○ さて、体型を変えるとき、○の部分は地面との間に摩擦がある。そのため、(1)⇔(3)の体型の変化においては、3と4は動かないで1が引きずられて左右に移動するようにする。また、(2)⇔(6)の変化では1、2は動かないで4が引きずられて左右に移動するとする。(3)⇔(7)の変化の場合には、3の位置が変わるだけで、他は移動しない。以下同様である。 ちょっと動きを速くして、尺取くんを遊ばせてみよう。 生まれたばかりの尺取くんは、動き回りたいのだがどのようにしたら前に進めるのか分からず、とにかくクネクネといろいろ体型を変えてみている。ちょっと前に行くこともあるが、また後ろに下がったりして、ほとんど同じところでジタバタしている。(充分時間が経つとすこしはどちらかに移動するかも知れない) これは、1、2、3、4の数字の中からでたらめに1つ選び、1がでたら1の関節を変化させる。同様に、2なら2、3なら3、4なら4の関節を変化させる、というようにしているのであるが、1〜4の選択を全くでたらめにしているからである。 ●学習する尺取くん このままでは近くに餌があっても、尺取くんはあえなく飢え死にしてしまう。そこで、前に進めるように学習する能力を付けさせよう。 1 2 3 4 2を選ぶと、(3)になり、体全体の重心が大きく右に移動する。 3を選ぶと、(5)になり、体全体の重心が大きく左に移動する。 4を選ぶと、(8)になる、体全体の重心がわずかに左に移動する。 となることがわかる。尺取くんは、右に進みたいわけであるから、この4つの場合のうち2、あるいは1が選ばれたらいいと考えよう。そこで、1〜4のうち2が選ばれる確率を最も大きく、次に1が選ばれる確率を大きくすることにしよう。 すなわち、尺取くんが(1)の体型で、クネクネしてみて体全体の重心が右に移動したなら、次回からはこの動きをしやすくするのである。同様のことを他の体型の場合についても行う。 実はお気づきかも知れないが、(1)の体型のとき1を動かしても、尺取くんが右に動くことの何の役にも立たないのである。したがって、このような学習をさせて果たして、尺取くんは前進できるようになるのだろうか、と不安もないではない。教育が間違っている? いや尺取くんの知能が低い? そうではなくて私の知能が低い? まあ、あまり深くは追求しないでおこう。 「遊び中」 のボタンを押すと 「学習中」 になり、尺取くんはこのような学習を自ら行い始める。場合によっては、尻ばかり振ってちっとも進まないような尺取くんになってしまうかも知れないが、もしスムーズに前進するようになったら、めでたしめでたし。一度順調に成長したら、ますます賢くなると思う。何回か試してみると天才尺取くんができるかも知れない。 多少いい加減な教育をしても、あるいは多少いい加減な能力でも、成功体験をすればそれをどんどん積み重ねていくらでも伸びる、というと言い過ぎだろうか。 (2004. 7.30)
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