> 『数学的思考(?)エッセイ』 の試み

89. 急がば回れと言うけれど
 おや、久しぶりだね熊さん。 しばらく顔を見せなかったな。
 へい、大家さん。 『急がば回れ』 と言ったりしますが、ありゃどういう意味ですかね?
 なんだい、やぶからぼうに。 相変わらず熊さんはせっかちだね。 まあ、お茶でも入れてあげるからおあがり。
 あちっ! こりゃ焼けどしちゃいますよ、大家さん!
 だから 『急(せ)いては事を仕損じる』 と言ってな、物事は急いでやろうとしては失敗するということだな。
 大家さん、あっしが知りたいのは 『急がば回れ』 の方なんですがね。
 まあ、落ち着きなさい。 『急がば回れ』 も 『急いては事を仕損じる』 もだいたい似たようなもんだが、 まあ、急ぐときには危ない近道を通るより、回り道になっても安全な道を通った方が結局早く着く、 つまり急ぐときにはより確実な方法でやりなさい、というほどの意味だな。
 でもね、大家さん。 どっちが危ない道でどっちが安全な道かは、通ってみなくちゃあ分らないですからねー。 あっしなら近い方を行きますがね。


 確かに、回り道の方がいつでも安全で確実であるとは限らない。 一般的に、真実はシンプルで単純な姿をしているものである。 数学や物理学は、より簡単で早道な方法を求める学問だともいえる。

 ところで、やぶからぼうであるが、次の 「おにごっこゲーム(パズル)」 に挑戦してみていただきたい。
 逃げ回るてる坊やを、鬼のあなたが捕まえるゲームである。 お互いに、自分の番のとき一つだけ移動しなければなりません。

      

 難なく、てる坊やを捕まえることができたであろうか。 もしできなかった方は、『急がば回れ』 を思い起こして再度挑戦していただきたい。

 これは、『急がば回れ』、あるいは 『急いては事を仕損じる』 の例として作成 (芦ヶ原伸之著「奇想天外パズル」問17 を参考にさせていただき、それをちょっとだけ複雑に改題) したものである。

 どのようにしてもうまく行かないときがあるものである。 その因は、目的物と自分のパリティが異なるからである、ということもあり得る。 まずパリティが同じかどうかを見極めることが重要である。 もし同じであるなら、回り道をする必要などなくまっしぐらに突き進む方がよい。 もし異なるなら、回り道をしてでも自分のパリティを目的物のパリティに一致させなくてはならない。 これが 『急がば回れ』 の、数学的思考(?)における意味である、としておこう。

  急がば 回る前に パリティを調べよ     (よかひよかとき 「新格言集」 より)

(2006.10. 6)

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 パリティ (Parity) とは(フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)より抜粋)
   等価性の観念または等価性を維持する機能のこと。
   数学において置換(順列)の偶奇性(パリティ)とは、置換を分解して得られる互換の個数の偶奇性(偶数か奇数か)のこと。

  (例)
    数の並び (1234) から (2314) を作るには、1 と 2 を置換し、次に 1 と 3 の置換を行う。 それ以外の方法もあるが、いずれにしても 偶数回の置換が必要である。 そこで、(2314) のパリティを偶とする。 同様に、(4231) のパリティは奇である。 パリティが偶のものを、偶数回の置換によってパリティが奇のものにすることはできない。

 (てる坊やを捕まえるためのヒント)
 
 もし、×印の道が無いならば、絶対てる坊やを捕まえられません。 パリティを変えられないからです。

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